築58年をフルリノベ!丘の上の共同住宅「しぇあひるずヨコハマ」 | 大家の学校

築58年をフルリノベ!丘の上の共同住宅「しぇあひるずヨコハマ」

 

みなさん、こんにちは! 横浜で大家業を営む荒井聖輝(あらいきよてる)と申します。

今回ご紹介する「しぇあひるずヨコハマ」は、築58年の「海-UMI-」、築52年の「空-SORA-」というアパート2棟と、築47年の「陸-RIKU-」という戸建て1棟で構成される、神奈川区の丘の上にある共同住宅です。

横浜駅徒歩圏の840平米という広い敷地には、大きな桜の木や池、畑もある、自然豊かな空間が広がります。2つのアパートは、いずれも外階段が設けられており、誰でも屋上までダイレクトに、自由に行き来することができます。

 

 

「しぇあひるず」という名前は、モノ、ヒト、コトを共有し合う「Share」と、丘の上の建物群を表す「Hills」を掛け合わせており、ひらがなを使うことで、普通の物件とは少し違った「親しみやすさ」を込めています。賃貸としての戸数は8部屋と、専有スペースは大きくありませんが、ラウンジやバスルーム、スカイデッキ、キャンピングトレーラーなどの共有スペースを広く使うことができます。

 

高層ビル街間近の都心部にありながら、これだけの広さのスペースを確保できるのは、丘の上で「未接道」であるということ、長年のお付き合いのお寺さんからの「借地」で、地代が低く抑えられているためです。

 

 

横浜市内だけでも、18万戸あると言われている空き家。私の祖父より母が引きついだのが、居住者1世帯と、あとは物置か空室という、地域で最も老朽化が進んだ空きアパートでした。かれこれ50年以上、一度も大規模修繕をしてこなかったのです。内装だけでなく配管や躯体の損傷も激しく、部屋の中まで雑草が入り込むなどすっかり「廃墟」と化しており、安全や景観上の問題があることは誰が見ても明らかでした。

 

しかし、未接道の同一敷地に建物が3棟建っている状態は、いわゆる「既存不適格」であり、これは立て替えができないことを意味します。コンクリート3階建てを2棟解体し、更地にするだけでも借金が必要な額となるため、何とか昔の記憶を残すために、2棟同時にフルリノベーションをすることを決めました。

 

 

リノベーションの過程において、築58年のアパート「海-UMI-」では、2階部分のワンルーム3部屋の壁を抜き、共有のキッチン、バスルーム、ラウンジを新たに設けました。もともと各部屋にお風呂がなかったことと、ただのアパートではなく「シェアする暮らし方」を基本のコンセプトにしていたからです。

このラウンジは、日ごろは住民みんなが食事をするスペースですが、学生のスナックや上映会、パーティー、子育てグループの交流会、町内会の集まりなど、様々なイベントができる場として地域に開かれています。

 

 

母(大家)が育った家であり、現在も居住している「空-SORA-」の一番広い部屋には、昔のグランドピアノも置かれ、こちらもシェアルームとして利用することができます。旧いコンクリート建築という特性を生かし、天井・床の片面をコンクリートのまま露出させ、もう片面は木材で仕上げることで、コストを抑えながら居心地のよい空間を作っています。

また、改修費用をなるべく圧縮するために、住民自ら床張りや塗装など「DIY」ができるように、あえて仕上げをしないスケルトンの居室も用意しました。

 

 

しぇあひるずヨコハマの魅力は、なんといっても横浜をぐるりと一望できる「眺めの良さ」です。戦国時代に北条家臣の居城、幕末に首都圏初のアメリカ領事館が置かれた、「神奈川宿」の要衝にあって、スカイデッキからは、遠く富士山や東京都心まで望むことができます。特に花火大会の日には、近隣の方が料理やお酒をたくさん持ち寄って、みんなでそれをシェアしながら花火や食事を楽しんだりします。

 

「イベントを多数やって、近所から苦情がこないか?」という質問をよく受けますが、近所全体で空間を共有することで、他人事が自分事になるように、「社会実験」をリノベーション工事前からおこなってきました。現在でも、この場所ができて嬉しいと感じてもらえるように、お知らせやお裾分けなど工夫しています。

 

 

しぇあひるずヨコハマには、横浜駅から一番近い畑があります。こちらは「HATAKE部」といって、地域の人やNPOの人たちが積極的に活動・運営しています。また、ラウンジから出た生ゴミは、処理機とコンポストを通じて、畑の肥料に還元されます。
さらに、屋根のある「陸-RIKU-」では太陽光発電によるエネルギーの自給も行っており、電気自動車用の外部電源も敷地に備えています。将来的には地域でのカーシェアリングもおこなっていく予定です。

 

住むだけの賃貸住宅から、食やエネルギーの生産と共有、多様なイベントでの文化の発信、スナックやマルシェなどの経済活動、大学や行政とのまちづくりの共同研究、BBQやキャンプなどレクリエーションなど、あらゆる目的で集まることができるのが、この場所を「住宅型複合施設」と呼ぶ理由となっています。

 

 

しぇあひるずヨコハマができて1年経った春。お隣りに新築の家が建ち、新しいファミリーが引っ越してきました。実は、この新築を建てる際に、こちらのご家族やハウスメーカーさんが、しぇあひるずヨコハマのリノベーションに感銘を受け、「外構部分を共同」で作る覚書を結びました。
それまで敷地境界に建っていた薄汚いブロック塀はなくなり、家同士を芝生でつなげてしまうワークショップをおこないました。地域で一番古い住宅と新しい住宅とが、空間的に一つになり、お互いに助け合うような暮らしがスタートしたのです。

 

これからも、周辺地域の生活に貢献しつつ、近隣住民の意識が少しずつ変わっていくことで、やがて丘の上の住宅地全体が「しぇあひるず」と呼べるように活動を続けていきたいと思います。

 

【物件の概要】
所在地:横浜市神奈川区高島台1-5(神奈川駅徒歩5分、反町駅徒歩7分、横浜駅徒歩12分)
建物:RC造3階建2棟、木造2階建1棟、全9戸(住宅1戸、事務所1戸、住居7戸)
空室:なし
運営:株式会社ここくらす
サイト等:https://www.facebook.com/sharehills

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