豪雪・過疎地だってクリエイティブに!北海道・岩見沢【取材部レポート#1】 | 大家の学校

豪雪・過疎地だってクリエイティブに!地元・北海道で拓く新境地【取材部レポート#1】

こちらの記事は大家の学校の部活動のひとつ『大家の学校 取材部』によるレポートです。大家の学校卒業生の取り組みを取材して随時連載していきます。
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個性豊かな大家の学校7期生。その中でもひときわリーダーシップを発揮してくれた齊藤知也さん(以下、TOMOZOさん)に卒業後の挑戦について伺いました。実はTOMOZOさんは人材育成のプロ。クリエイターを育成する会社で、学校の運営やキャリアサポートを通じ、地域の雇用創出に長く携わってきました。新たな挑戦の場所は18歳まで生まれ育った北海道・岩見沢です。豪雪地帯で有名な岩見沢は人口流出が止まらず、若者どころか高齢者すら離れ始めているといいます。TOMOZOさんの熱意が地元の有志に届き、今まさに地域再生プロジェクトが始まろうとしています。(2021年2月8日)
写真:インタビューを受けるTOMOZOさん(撮影:黛純太)。クリエイターを育成する会社で学校の運営やキャリアサポートを通じ、地域の雇用創出に関わってきた

◆廃れる故郷を憂慮、「地方創生の聖地」訪問で決意した地元再生

「岩見沢って札幌から40キロで、新宿から八王子ぐらいの距離だからすごい近いんです。昔は炭鉱でにぎわったんですけど、今は人口が8万人くらいまでに減りました。雪がすっごい多くて、それが岩見沢の嫌いなところナンバーワンです(笑)。積雪は札幌が9センチだと岩見沢は130センチになる。大型スーパーも昔はあったけど、今は撤退してしまいました。野菜とか魚を売っていた市場もつぶれて跡地の空き家がそのまま残されている。岩見沢で何かやろうと思っていたころ、2019年12月ですが、岩見沢に住んでいる中学の同級生のバンド仲間と話していたんですよ。そしたら、岩見沢で愛されてきたライブハウスがなくなったって。人の集まる場所がどんどんなくなっている。『何とかライブハウスを復活させたい』と話していたその友達が今、岩見沢で私と一緒に動いているメンバーです」

写真:岩見沢市の風景。冬は雪深く、商店街には空き家が目立つ
これまで培ってきた地域活性化支援のキャリア経験を生かそうとしますが、人口約8万人の岩見沢では事業として成立が見込めません。会社での活動ができないのであれば個人でやってみようとTOMOZOさんが決めたのは2019年、「地方創生の聖地」ともいわれる徳島県の田舎町への訪問がきっかけでした。

「岩見沢でチャレンジしてみようと決めたのは徳島県の神山町と美馬市へ行ったからなんです。神山町と美馬市は隣接していて、両方とも地方創生の取り組みで有名です。神山町だと人口約5千人ぐらいなのですが、IT企業のサテライトオフィス誘致をしていて若い人が多く住んでいるんです。美馬市ではフリーアドレス制のコワーキングスペースなどを見学しました。人口これぐらいの地域でこれだけ若い人たちがいるのはすごい、町の規模は小さくてもクリエイティブなことができるんだって驚きました。

現会社の仕組みだと関わる人はある程度限定されるのですが、神山町や美馬市みたいな場所では本当に色々な人と関わります。大工さんとか猟人さんとか、普通は会わないような人たちとも会える。これこそが、本当の町興しだって思いましたね。それまでは正直、『町興し』なんて自分が言うのはおこがましいと思っていた。『新しいことを考えてそうだから何かアドバイス下さいよ』と私自身よく言われていましたが、そういうコンサルだと上手くいかないと思っていたんです。地域の人たち自身で変えていかないと」

全国から移住者が集まる神山町と美馬市では、空き家だった古民家がカフェやレストランへと生まれ変わっています。神山町ではITベンチャー企業のサテライトオフィス誘致の他、国内外のアーティストに滞在制作(アーティスト・イン・レジデンス)の場も提供しています。有志たちの手で息を吹き返した町の様子を目の当たりにし、地元の岩見沢でもやれるんじゃないかとTOMOZOさんの思いは強まっていきました。

 写真:全国から移住者が集まる徳島県の神山町と美馬市(2019年撮影)

大家の学校で学んだ視点、仕事と暮らし、地域のライフサイクル全体を考えること

大家の学校校長が経営するダイニング「都電テーブル」の常連だったTOMOZOさんは2020年春に大家の学校へ入学。カフェやシェアオフィス、商店街の再生など様々な“場”づくりを全国各地で実践している講師たちの手法を学びます。

「都電テーブルで開かれた6期生の閉校式に侵入してみたんです(笑)。それで自分も受講してみようと。同じクリエイター人材育成会社の黎明期のメンバーでもある漆原秀さん (第2・3期受講生)がたまたま卒業生にいたのも理由として大きかった。彼は千葉県館山市へ移住して、新しいコミュニティをつくっている。彼も受講してたんだーって驚きました。岩見沢ではこれまでの雇用創出事業と違い、単純に人を育てるだけじゃなくて、町とか暮らし、生活、そして仕事をつなげるようなことをしたい。それは大家の学校で学んだ視点です。つまり、その地域そのものの暮らしに目線を置く、ライフサイクル全体を考えるということ。

そういう大家の学校視点を持ちながら岩見沢で色々動いていたら、幸いにもたくさんの賛同者とつながれることができました。今協力してくれているのが、北海道教育大の岩見沢分校の学生たち。他にも移住してカフェを経営する人、岩見沢市元炭鉱の山間部の美流渡(みると)という若い移住者が集まるエリアでゲストハウスを運営している人など、地元の色々な人と話し賛同してもらっています。プロジェクトをやると決めて賛同者を集めたというより、これをしたいと動いていたら賛同者が自然とつながった感じです。みんな、もともと他にも何かしたいという気持ちを持っていたんですね」

デザイン思考はボーダレス、岩見沢に世界とつながれる仕事場を

TOMOZOさんは今年2021年、株式会社一+一=(いちたすいちは)を設立します。会社名には一歩一歩、一人ひとりと向き合うという意味を込めています。メンバーは旧友を中心とした地元の仲間たちです。まず第一弾として、デザインの仕事を通じて地域と人がつながる拠点づくりを目標にしています。

「デザインの仕事ってどこでもできるんです。日本だけでなく世界から仕事をとってくることもできます。ただ、その情報が必要な人たちに届いていない情報格差があるんです。仕事がないからみんな岩見沢を出て行ってしまうのなら、仕事をつくればいい。そのために株式会社一+一=を設立します。『一+一=があるから岩見沢に残るか』という存在になるのが理想です。デザインは仕事の場所を選ばないから子育て中のママと相性がいいんですよ。地元にもデザイン思考をもってくることで、もっと子育てのしやすい環境をつくりたいと思っています」

写真:岩見沢市で今年オープンする「大正ボックス」は大正時代の建物をDIY。リデザインに関わる仲間が集う場所へと育てる 写真:大正ボックスでは岩見沢が誇る「レインスピーカー」で音楽も楽しめる
そして、今年はその初めての拠点である「大正ボックス」を岩見沢市でオープンします。内装は大学生や有志を募って一緒にDIY。岩見沢のリデザインに関わる仲間が集い、アイデアを育む場所にしたいと言います。

「なぜ大正ボックスと名付けたかというと、この建物は大正時代(大正14年)に建てられていて商店街で最古の店舗だからなんです。ここを拠点に仕事を提供していきます。デザインの仕事をしたい人を集めて教育して、家で仕事もいいけど、空いている時間はコワーキングスペースとして大正ボックスを活用してもらえれば。大正ボックスの目玉として、岩見沢が誇る『レインスピーカー』を置こうと思っています。岩見沢市の板金屋が自前でつくったスピーカーで音がいい。『100人カイギ(地域で働く100人を起点に、人と人とをゆるやかにつなぐコミュニティ活動)』とか大正ボックスでやるのもいいかもしれませんね。学生のピッチセッションとかも。今協力している大学生の中には『卒業後も岩見沢に残ります』と言ってくれる子もいる。やっぱ学生が卒業後も残るような場所にならないとね」

◆アナログ×デジタル、人が集まれる場所を一つ一つ復活させる

やりたいことてんこもり!TOMOZOさんはアナログ×デジタルの融合をやっていきたいと言います。デジタル分野を専門にしてきたTOMOZOさんだからこそ、岩見沢に残る多くのアナログ資産を巡り構想が無限に広がります。

「元々炭鉱で栄えていた岩見沢は、鉄道を中心とした交通の要衝で物流拠点としても発展し、金融も非常に多かった。炭鉱で稼いだお金をスナックで使う人が多くて、日本一スナックが多いんじゃないかって(笑)。そのスナックも今や空き家が多くなっているのですが。地域の記憶として生かせるものは生かしたい。石狩平野を一望できる景色のいい高台や、グッドデザイン大賞を受賞した駅舎もあります。地元の大学生は、20年以上前になくなった岩見沢ねぶた祭りを復活させようと2018年から動いていましたがコロナ禍のため延期になっています。岩見沢ねぶた祭りもコロナ収束後の開催を楽しみにしています。

風情ある札幌軟石の建物も岩見沢の特徴です。30年ぐらい使われていない札幌軟石の建物があるんですけど、なんとかリデザイン、再価値化したいとメンバーとの思いが高まり、次のプロジェクトとして進めていきたいと考えているんです。2019年になくなったライブハウスのような、愛されるライブハウスに復活させたいと思っています。ライブハウス&バーみたいに、また岩見沢で人が集まれる場所をつくりたいです」

写真:岩見沢ねぶた祭り復活へ活動する地元の大学生
写真:グッドデザイン大賞を受賞した岩見沢駅舎
写真:石狩平野を一望できる高台もある

 


◆大家の学校8期 受講生募集中!

家やお店、オフィスなどの場やまちの在り方を一緒に学び、考えていくスクールであり、プラットフォーム「大家の学校」。2021年5月に開校する8期の受講生を募集しています!

コロナによって住空間での過ごし方が変わり、住宅やお店が駅からの距離に縛られない未来が近づき、まちの価値基準も変化しはじめています。 その変化に翻弄されるのではなく、自ら進化していきたい受講生の皆さんをお待ちしています。
新しいライフスタイルが求められている今だからこそ、一時のブームではなく、日常に溶け込み、長く愛着を持たれる場をつくり、運営する講師の事例をもとに、受講生同士で学び合いましょう!
【大家の学校の詳細・お申込はこちら】
申込期間:2020年12月13日〜2021年3月31日
受講期間:2021年5月19日〜2021年12月15日
【こんな方におすすめ】
・場づくり、まちづくりに興味がある方
・未来志向の大家さん
・現在物件を持っている方に限らず、いずれ物件を受け継ぐかもしれない方、物件を持ちたいと考えている方
・物件を所有する予定はないが、人が集う場をつくりたい方

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