2020.05.09

これからの住まいや暮らしはどうなっていく? 「大家の学校 ホームルーム」イベントレポート〈後編〉

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「大家の学校」のスピンオフ企画として、2020年5月1日に開催した「大家の学校 ホームルーム」の様子を抜粋してレポートします。

前編はこちら

 

後半は「これからの住まいや暮らし方」についてパネリストの皆さんと話していきました。

 

 

価値の交換ではなく循環が生まれる共同体

 

合同会社巻組の渡邊さんは住まいに対して「お金じゃない生活の支え、家賃じゃない価値交換が重要になってくると思う」と話します。そこで、お金と住まいを交換しない契約を実験している株式会社アンディートの安藤さんにお話しいただきました。

 

安藤さん
私は、賃料をお金に限定しない契約をしている住人が3組いて、彼らとは小さなギフトエコノミーの関係性を実験しています。今の社会は、基本的にお金と価値の交換をしていると思うんですが、お金のいらない社会もあるかもしれない。すべてをそうすることはできないけれど、無理をしない範囲で取り入れてみています。支払い対価は自分らしく生きることで、滞納はモヤモヤしながら生きること。

大切なのは交換ではなく循環で、私に返すのではなく世の中に返してほしい。実際にさまざまなスキルを持つ人たちなので、家賃に縛られず本当に自分のしたいことをして活躍しています。

 

さまざまな住まいのあり方、大家としての住人との関わり方を実験している安藤さん。国土交通省が行っている高齢者、障害者、子育て世帯等の住宅確保に配慮が必要な方のための「住宅セーフティネット制度」を取り入れています。

 

 

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安藤さん
いろいろな支援の仕方はあると思うのですが、私の場合は困っている人を支援してあげようという視点ではなくて、リノベーションを通じて素敵に暮らして欲しかった。小さなお子さんのいる世帯では、壁を黒板塗装にしたり、雲の光る壁紙にしたりして、初めてお子さんが部屋に入ったとき、すごく喜んでくれたって報告をしてくれて嬉しかったですね。

先日、行政の視察があって見学を住人さんが受け入れてくれたのですが、その人が「家賃は安藤さんへの恩送り」と話していて驚きました。

価値の交換より循環と理解してくれているのだと思います。

 

住まい=個で完結するものではなく、もっと広い視野で捉えてみてもいいのかもしれません。住まい自体も住む以外の様々な機能を持ち、住人同士も様々な役割を持つ共同体と捉えてみてもいいのかもしれません。

 

青木さん
住宅という共同体が繋がり合い、連携することも面白さがある。共同体がアメーバ的に自然に広がって、繋がることで、一つの共同体では賄えないことも補完関係で支え合うこともできる。

これやってあげたんだから返してよっていう交換じゃなくて、さっきの循環っていう話になってくると良い世の中になりそうだな。

 

“循環”というキーワードを受けて、株式会社HandiHouse projectの加藤さんは「賃貸住宅も循環だ」と話し始めました。

 

加藤さん
住み継ぐって循環じゃないですか。
住み継ぐことで良い循環が生まれて、良いコミュニケーションになって、良い住まいになる。

 

 

自分が退去した後もそこが残って欲しいと思いながら、毎月家賃を支払うことは、定額の投資をし続けているとも考えられます。館山市で賃貸住宅ミナトバラックスを運営する漆原さんも最近、家賃やお金についてよく考えるそう。

 

漆原さん
ミナトバラックスでいうと、半数くらいの住人さんは家賃をメンバーシップ代って捉えてくれているんじゃないかなと思うんですよね。ここの住居に住むっていうメンバーシップ代かもしれないし、東京から移住して来たけど、ここに来れば人脈ができて地域の中で孤立しない仲間ができるっていうメンバーシップ代かもしれない。

 

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ミナトバラックスの住人たちがつくった畑

 

お金ではない契約もあれば、家賃の捉え方を変えて、単に住まいに対する対価ではなく、投資やメンバーシップ代という価値を見出すこともできるようです。そう考えると、住まいと大家、大家と住人のあり方もさまざまなカタチが見えてきそうです。

 

 

いつでも対話できる関係性をつくっておく

 

参加者からチャットで「コロナの件があって、住人さんで家賃の支払いが困難になっているようなケースは発生していませんか?」という質問があり、パネリストの皆さんに伺いました。

 

青木さんからは、LIFULL HOME’Sが行なった「新型コロナウイルス感染症に対する不動産事業者の意識調査」の数字を元に、家賃交渉などの声が不動産会社には届き始めている状況についてのお話がありました。

 

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引用:LIFULL HOME’S調査<第2回 新型コロナウイルス感染症に対する不動産事業者の意識調査>

 

 

パネリストの皆さんは、住人の状況によって敷金から充当したり、数ヶ月家賃を減額したりという対応をしているようですが、きちんと住人と対話をした上でのことだそう。

 

安藤さん
僕は透明性を大切にしています。

例えば1万円の価値って向き合っている2人では違う可能性があるので、今の自分の事業の内訳を全部相手に伝えています。だから、あなたに必要なお金の流れも教えて欲しいって。緊急ならばうちに住んでいる場合じゃないってこともあるかもしれない、その場合は引っ越し先を一緒に探そうと。それについては、このくらい僕は力やお金が出せるよと。

 

大事なのは、いつでも対話ができる関係性をつくっておき、お互いの状況を見せ合うことだそうです。ただ、その方法について山田荘を運営する山田さんからは「大変だし、心が苦しくないですか?」という問いかけが。

安藤さんは、オープンにした方が楽だと感じているようですが、山田さんは対話を大切にしつつも全てをオープンにすることは、自分には無理だと感じたようです。7人の中でも感じ方、大家としての住人の関わり方には違いがあることが分かりました。

オープンにしながらも、安藤さんの運営する住宅は家族のような関係ではなく「ワンルーム以上、シェアハウス未満」の距離感を大切にしています。近過ぎないからこそ、オープンにできているのかもしれません。

 

 

大家はボランチ型

 

ここまで、大家さんが住人さんとどう愛を持って関わるかに重点を置いて話していましたが、渡邊さんから「住人さんにも愛が欲しいなと思いますか?」という投げかけがありました。

 

渡邊さん
大家だけが愛があればいいわけじゃないから、愛ある住人さんを育てるのが大家の役割じゃないかなって。快適な住宅であることは当然で、対価を払ってその快適性を消費するのが当然だっていうのが、一般的じゃないですか。でも、自分自身の快適さや大家さんとの関係を築くことについて、住む側にもフラットに責任があるべきだと思っていて、消費者を生活者に昇華できる仕掛けをつくることが重要。

 

 

青木さんは「大家はまちの採用担当」と考えており、漆原さんもその考えに共感し、大家と住人の関係について話します。

 

漆原さん
経営者がいくら払うよと条件交渉から入るより、このビジョンを目指そうぜってなると給料を超えた関係になると思うんですよね。住人の募集も駅近やスペックって話から入りがちなんですけど、共感から入る募集の仕方、共感があるからこそ深掘りしていく愛ってあるよなって思いますよね。

 

共に会社を経営していくように、住宅を大家と住人がメンバーシップを持って、管理運営していく共同体を目指すことが、これからの賃貸住宅に求められるかもしれません。「共益費という仕組みも、住宅の中に民設民営の公園のようなものをつくるために使ったり、次のステップに行きたいんで共益費を上げましょうかって住人から提案してくれたりするといいね」と青木さんは話しました。

 

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青木さんが運営する青豆ハウスの共用部の様子。外に出られないので住人たちで砂場や滑り台を置き始めている。

 

 

愛ある住人を育てていくという考えに対して、加藤さんは次のように話します。

 

加藤さん
育てるってめちゃくちゃ良い感覚だなと思ってます。長い時間大家さんが頑張ってても住人さんが育たないと終わっちゃうんですよね。

HandiHouseをやってても、住人さんが工事中に現場のことを理解して、建築のことを理解して解像度がどんどん上がっていくと、まずクレームが起きないんです。クレーム産業と言われている世の中で。

育てる感覚を持ちながらやっていくことが、良い場所を生むんじゃないかなと。

 

 

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加藤さんが携わったお施主さんのDIY風景

 

 

育てるという感覚に対して、山田さんは違和感を感じるようです。

 

山田さん
私は「育てる」って、上に立っている感じがするんです。

もちろん俺について来いみたいなのはあるかもしれないけど、それってちょっと王国的な感じがしすぎてて。育てるんであれば、自分も育ちたいっていうのもありながら、皆ができないことをアシストしながら。

 

 

この話を受けて、青木さんは4月23日に開催した大家の学校のスピンオフ企画「ボクらの時代のまちづくり」というトークイベントでも同じような話題になったことを話しました。

 

青木さん
大家さんは、センターフォアードでも監督でもなく、ボランチ型が良い。皆が前線で自由に活動して、後ろで見て足りないなって思うこととか、この人とこの人が組み合わさるともっとちゃんとパワー発揮できるのになってことを裏側で繋ぐ。

大家さんの役割を見た住人が、ボランチ側に下がって来るとかもまた面白いよね。フォーメーションがどんどん変わっていく強さこそが、これからすごく大事なんじゃないかな。

僕がやってきた住宅の住人だった織戸くんは、赤羽岩渕で長屋のリノベーションをして、そこに住みながら共同住宅「コトイロの家」やコワーキングスペース「co-toiro iwabuchi」の運営をやってるんです。そこで最近、住人や地域の人が買えるように新鮮な魚やお野菜の移動販売車を誘致したらしいんですよ。賃貸住宅だけに閉じるんじゃなくて、その賃貸住宅がある地域の人も幸せに暮らせる環境をつくることで、賃貸住宅に住んでる人も幸せになる循環がある。

今回のコロナの一件で、本当に辛いこともたくさんあるんだけど、こういうアクションを先に取り始めていることにすごい勇気をもらった。

健康的な暮らしを人間の関係性を繋ぎ合わせてつくっていくと、もっともっと面白くなる。

 

 

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上:cotoiroの移動販売のお知らせ、下:魚を販売する様子

 

 

最初に声を上げるのは大家さんであることが多いかもしれませんが、時には隣で並走し、時には後ろからアシストすることで、アクションの輪が広がって、大きな循環が生まれていくようです。

 

7名によるトークセッションは、一つの意見に対していろいろな見方があり、大家や住まい、暮らしに対して、多面的に考えられる時間でした。

正解はない日々の中で、ご自身の取り組みへのヒントを感じ、希望を持って新しいことが始められるきっかけになれば嬉しいです。大家の学校のスピンオフ企画は今後も開催予定なので、お楽しみに。

 

 

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